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@土曜日〜日曜日 暇
目が覚め、時間を確認する。
六時。
俺は着替えを済ませ家を出た。
朝の通学路を一人で歩く。朝早いせいか制服を着た生徒は一人も見当たらない。
俺は静かな朝の道を無言で歩いた。
途中コンビニにより、立読みをして時間を潰す。今はまだ校門すら開いていないだろうから。
しばらく本を読み、いい頃になった。
コンビニから十五分。その程度の時間ただ歩くことに集中し、いつの間にか校門にたどり着いていた俺は、静かなグラウンドの横を歩きまっすぐに昇降口へ向かった。靴を履きかえる前に何となく、すべての下駄箱をチェックしてみることにした。ふたのない下駄箱をゆっくり歩きながら確認していく。結果、下駄箱の中はすべてスリッパしかなかった。つまりまだ誰も登校していないということ。自分の下駄箱に戻りスリッパに履き替え自分の教室へむかった。
当然、たどり着いた教室の中に人影はない。突っ立っているのもなんなので自分の席に座ってみた。さあ、何をしようかな。幸いなことに教科書ノート参考書はすべて机とロッカーの中に詰め込まれている。勉強ならし放題だ。しかし困った。やる気を家に忘れてきた。勉強はできないみたいだ。となると、することは何もない。仕方がないので机に突っ伏す。俺はそのまま眠りについた。
目を覚ますと八時十五分。普段なら誰か来ていてもいい時間なのだがいまだに誰もこの教室に入ってこない。
俺は携帯を取り出し曜日を確認した。
土曜ってやっぱり誰も来ないんだな。
「あー、暇だ」
土日は暇だ。学校がないなんて考えただけでも胸糞悪くなる。バイトも休みだし、友人は誰もつかまらない。こんな朝早くに捕まるような健康的な奴いないか。
学校の中を歩き回りたいがさすがに私服でうろつくのはあまりよろしくないだろうな。まあ、どうせうろついたところで何か発見があるとは思えないし、鍵もかかっているだろう。誰とも遭遇しないだろうし、後悔するのが分かっているのならやる必要はないな。
時計を睨むこと十分。チャイムは休日に関係なくいつも通りの予鈴を響かせた。なかなか偉いやつじゃないか。
それと同時に教室の扉が開いた。めちゃくちゃビビった。
「あ」
「……なんでお前がここに? しかも制服」
そこに立っていたのは我らが日傘同好会部長であった。制服を着て学校指定のカバンを持っている姿は普通の登校風景だ。しかし唯一おかしいところがあるのだが、それは今日が土曜日であるということだ。
「どうしたんだこんなところで」
「……それはこっちのセリフだと思うけど……。なにしてるのヒカゲ。もしかして土曜日ってこと忘れて学校に来ちゃったの?」
「そんなところだ」
今のセリフからわかるのは幼女も土曜日承知でここへ来たということだ。
「あはは。ドジだ。制服に着替えるのも忘れてる」
「土曜なんだから着替えなくてもいいだろう」
「??? 土曜って知っているから私服なのに土曜って忘れて学校に来た? 意味わからない」
「分からなくてもいいんだよ。そういや、日傘同好会土日どうするんだ? 活動は」
「それはおいおい決めて行こうよ。みんなで話し合いながらゆっくりと」
部長は無表情で俺に近づき俺の後ろに着席した。
「なんで今日学校に来たんだ。お前も暇だったのか」
「そんなところ」
そう言って部長は顔を隠すように窓の外へ顔を向けた。
「ところでどうしてこの教室に来たんだ。お前一組だから校舎違うだろう。部室も校舎違うし、ここに来る目的が見えない」
「下駄箱」
「下駄箱?」
「下駄箱に誰かの靴が入っていたから誰だろうなーって思ってきたの。ドア開けてみたらヒカゲだし、このがっかり具合はたとえようがないよ」
「そうなのか。よし、俺が代わりに例えてやろう。封筒をもらって金かな?とか思ってわくわくしながら開けてみたら一千万円の小切手だった、みたいなうれしいがっかりだろ」
「がっかりにうれしいも何もないよ。お金かな?と思ってわくわくして開けたら呪詛だった感じ」
「あっそう」
どうでもよかった。
「んじゃ、俺は帰ろうかな」
「始まったばかりなのに、もう帰るんだ」
「そうだな。実は俺六時過ぎに起きてここに来たんだわ。かれこれ二時間暇な行動をとっていたのだ。特にこれからここで何かをするわけじゃないし、この時間になると暇な誰かが目を覚ましていることだろ」
「ふーん」
「何だよ、どうでもよさそうな返事して」
「どうでもいいもん」
「可愛くないの」
「ヒカゲに可愛いと思われても鳥肌しか得られないからその考えはうれしいことだね」
「可愛いな」
「ありがとう」
なんか違うんだよな。
「お前、元気ないな。どうした」
「どうもしてない。早くこの世から出て行った方がいいよ。環境のために」
教えてくれそうもないな。
「じゃあな。体には気をつけろよ」
「はいはい」
部長は一度も俺に顔を向けることなく手を振った。
その日は、誰もつかまらなかった。
暇な土日は地獄かと思うほど長く感じた。
無限という名の地獄。
世界で孤独を知っているものだけの地獄。
俺に何かしらの趣味でもあれば土日を待ち遠しく思えるのだろうが、今の俺にはストレスのたまる日でしかない。
だがこの地獄もあと二時間で終わる。その八時間後には登校だ。俺は学校までの残り十時間を睡眠で潰すことにした。